ドライフラワー - フラワーコーディネーター森 由美子のホームページ

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ドライフラワー

 

 ドライフラワー(正確にはドライドフラワー)は、私にとっては幼い頃からなじみ深いものでした。

 実家の庭には、春から夏にかけて、スターチス・シアヌータ、コバンソウ、センニチコウ、ヘリクリサム(ムギワラギク)などが植えられていました。茎や葉はとうに枯れてしまっているのに、花はそのまま美しさをとどめていることが、母や私自身の興味の的になっていました。

 とくに、ヘリクリサムは、赤、白、黄色、オレンジ、クリーム、ピンク、ワインレッドなど、その色の多彩さは感激ものでした。毎年ひと袋の種を庭にまきましたが、色の取り合わせはその都度違っていて、花が咲くまではどんな色の花が現れるか見当もつかず、待ち遠しい思いで待っていたものです。好きな色の花がたくさん花開いた年には嬉しさもひとしおでしたが、とりわけ美しい色合いの花を摘み取り大事に小箱に納め、折々にそっと手のひらにのせてはその色をあかず眺めていたあの頃のことがなつかしくよみがえります

 

Dried Flowers1-m

自然乾燥させたガマ、ラグラス、アワ、シダ、コウリャン、ナラ、ジュズ、コギク、リモニューム、ナツハゼ、バラの実などを使った作品。

 

 母からは、ヘリクリサムの花は開きかけたつぼみのうちに茎を少し残して切り取ること、生のうちに花くびを竹串にさすこと、花瓶に入れて花を開かせて乾くのを待つこと、きれいな花だけを残して花飾りにすること……と、作り方のコツを教えてもらいました。早逝した母と分け合った幼い日々の楽しい思い出です。

   母と私は、こうした花を「永久花」と呼んで、私たちなりの装飾に使っていました。我が家での永久花との出会いが、私にとってのドライフラワーとの出合いでした。

乾燥させたヘリクリサムの花飾り

は、世界各地で見受けられます。

右は40数年前にタイで出合った  

仏様への花飾り。かつて母と一緒

に作ったものと同じように竹串に

さして作られています。左はバル

ト三国のひとつ、リトアニアで買

い求めたヘリクリサムの花飾り。

      

 

  

 

 

 

 

 

 

 

Dried Flowers2-m



 中学時代、友達からドングリとヘリクリサムの愛らしいコサージュをもらいました。竹串ではなく、ワイヤーを花に挿してまとめる方法を知りました。ヘリクリサムの深いオレンジ色とリボンの淡い茶色。そのコントラストの素晴らしさにドキドキしたのも、まるで数日前のことのように思い出します。

 恵泉女学園園芸科に入学してから間もなく、神保町の古本屋で1冊の英語の本を見つけました。ペーパーバックの小さな本ですが、表紙にFlower Arrangementの表題とともに、20種以上の花々でデザインされたオーバルのアレンジメントが、品よくカラー写真で載せられていました。後半、20ページにわたる"Dried Flowers"の章には、ドライフラワー(dried flowers)の魅力がふんだんに語られていました。辞書を片手に少しずつ読み進めた私をドライフラワーの世界に引き込んだのがこの本でした。

 

 同書の説明によると、ビクトリア時代の若いご婦人方は、健康維持のために野山の散策を奨励されていたとのこと。その折に摘んで持ち帰った花や葉が、部屋の中でいつの間にか乾燥してしまい、自然の美しい色合いをとどめながら、生花とはまた違った趣きのものになることが発見されたのだそうです。                               

      

Dried Flowers3-mm

私のドライフラワー研究の原点となった本です。イラストの大きなポピーの実とは、後年クリスマスシーズンのチェコ・プラハの花屋さんで初めて出合いました。

 

 花の少ない季節、ビクトリア時代の英国の貴婦人たちは、ドライフラワーをアレンジして、暖炉の横に飾ることが多かったようです。暖炉の火に照り映える、ドライフラワーの独特な深みのある色合いが、見る人たちを和ませたに違いありません。古き良き時代の重厚な室内調度品に、ドライフラワーの渋い色調がよくなじんだことでしょう。

 

 前述の本に触発されて、私も、野山や庭で集めた野草や木の実を乾燥させて、自宅の居間の暖炉の横や、玄関の鏡の横などに飾って楽しむことを覚えました。山歩きで拾ったカラマツの実のついた大きな枝、伊豆や箱根で採集したハンの木の枝やススキやコバンソウ、庭で育てたシラン、アヤメの実、野バラの実、ウツギの実、ノリウツギ、アジサイの花、ハハコグザ、シダの胞子、ヘリクリサム、シュッコンカスミソウ、ローダンセ……などなど、様々な材料を利用するようになりました。

 切り取る時期が早すぎたり、遅すぎたり、失敗と成功を繰り返して、そう10年ほどもかかったでしょうか、やっと植物たちを一番よいタイミングで切り取るワザを身につけるまでには。

 

Dried Flowers4-m

 

   

 ドライフラワーは、生花とは違い、何年にもわたってひとつの作品に手を入れ、完成度をたかめつつ、アレンジメントの妙味を楽しむことができます。私の場合も、年をおうごとに多少汚れたり折れたりしたものを差し替えたり、植物の種類を増やしたりしながら、よりよいものに仕上げていく努力を続けています。

 同じ野バラの実でも、1年ごとに色合いの深みを増し、1粒1粒の微妙な色の違いもはっきり出てきて、すばらしい調和をみせることがよくあります。かつて10年を経た作品が、写真に残しておけばよかったと、今でも悔しく思うほど素晴らしい作品に仕上がったことがありました。

        

オキュパイド・ジャパンの花器に活けた作品。デルフィニウム、ホオズキ、アマランサス、アカシア、イベラス、ポピーの実、シャクヤク、センニチコウ、シルバーデージー、クリフォーティアなど。  

 

 はや50年ほど前のことになりますが、銀座の宝石店に、ヘリクリサムによく似た小さな花の束が飾られているのを見ました。「スターフラワー」という名で、篭やガラス器に活け込まれたものが出回ったのは、それから間もなくのこと。一時、大変なブームとなったものです。

 その後、オランダ、イタリア、オーストラリアから、ドライフラワーが生け花の素材として輸入されるようになり、新花材として注目を集めるようになりました。

 

 私自身の思い出としては、日本橋のデパートのイベントの折、イタリア製の大きな花馬車のまわりにドライフラワーの束をたわわに飾って販売したところ、わずか15分で完売したことがありました。それから3年ほどの間、毎日毎日トラック一台分のドライフラワーを納品することになり、寝る間もおしいほどのセールス活動の中で、ドライフラワー・ブームを実感したものです。私がドライフラワーのアレンジメントを本格的に手掛け始めたのはその頃のことです。 

  

 最近は、世界中からドライフラワーの素材が集められ売られています。豊富な花材に恵まれていることは嬉しいことですが、中には不自然に感じられる色付けが施されているものもありますが、やはり自然な色合いをそのまま生かすのが望ましいと思います。

 ドライフラワーは決して生花の代用品ではありません。自然の持つ美しさを引き出し引き立て、とどめることのできる奥深い技法です。私もぜひ研究を続けて、生花とはまた違った植物の魅力を、日常の生活に活かしていきたいものと思っております。

           

 Dried Flowers5-m

野趣味あふれるドライフラワーのアレンジメント。バラ、ユーカリ、ナラ、牧草、ハスの実、シルベストコーン、ドライレモン、マツカサなど。(制作:岩本佳子さん)

 

          

Dried Flowers6-m

 

5本指の花器

ビクトリア時代に誕生したドライフラワー用の花器です。

自然乾燥した花々を5本の指の口に挿し、扇型にまとめる

ためのものです。花の少ない、暗く長い冬の間、暖炉の上 

に飾るように作られたものと伝えられています。

手前の白い器は、50年前、アメリカの歴史村ウィリアムズ

バーグのお店で出合い、買い求めたアメリカ製のものです。

左後ろの器はイタリア製。                                                                                      

Dried Flowers7-s

 

 

左は、5本指の花器を使ったアレンジメント。

雑誌『フローリスト』の1994年9月号(誠文堂新光社刊)に

掲載された記事中に、この花器に活けたアレンジメントを

紹介しました。