旧正月直前、ハスの国々で出合ったことごと - フラワーコーディネーター森 由美子のホームページ

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旧正月直前、ハスの国々で出合ったことごと

 

 2016年1月の下旬、46年ぶりのカンボジアに行ってまいりました。その帰りに5年ぶりのベトナムにも立ち寄りました。

 

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 両国とも、激しく長い戦乱の時代に、多くの犠牲者を出し苦しんだ国々であり、いま新しい国造りのなかで急速に変貌をとげつつありますが、ふれ合う人々の優しさや穏やかさには変わりはありませんでした。

 

 今回の旅の第一の目的は、カンボジアのシェム・リアップ再訪でした。世界遺産のアンコール遺跡群がある町です。全日空便で羽田からハノイへ飛び、ベトナム航空便に乗り換えてシェムリアップへ、という経路でした。

池越しに見るアンコール・ワット(「大きな寺」の意)

 

 

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 初めてこの町を訪れたのは1970年2月、もう46年も昔のことになります。まだ観光客もまばらで、緑の木々と美しい花々に彩られた、静かな古都のおもむきでした。

 

 宿泊したホテルは、アンコール・ワットの真ん前にあり、テラスから外堀に渡した堤道の向こうに寺院の伽藍が美しく望めるという、なんとも素晴らしいロケーションに感激したことをよく覚えています。

朝焼けのアンコール・ワットも美しい。

 

 

 このホテルから、連日アンコール・ワットやアンコール・トムなどの遺跡巡りに出かけましたが、その折に案内していただいたガイドさん(英語ガイド。まだ日本語ガイドはいなかったと思います)は、きちんとした教育を受けられた、知的で博学な好青年でした。自宅にも連れて行っていただき、ご家族にも暖かく迎えていただきました。

 

 その当時のシェム・リアップでは、日本人の考古学者から教えてもらったという手法で、遺跡の浮き彫りを墨で紙に写し取る「拓本」が、ほとんど唯一のみやげものでした。ガイドさんの家でも家族のみんなで拓本作りをして、それを生活の糧にしていました。世界遺産に登録された現在では、遺跡から拓本を取ることは禁じられており、それらしく模造したものしかないそうですから、かつて私が買い求めた何枚かの拓本は、いまでは大変貴重なものであることが分かりました。       

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これが46年前の拓本。
踊り子とハスの花々の浮き彫りがみごとに

写し取られています。

 

 あの頃は、キャセイ航空が日本から香港経由でカンボジアに行けるという新路線を就航させたばかりのことでした。日本からの旅行者もこれからどんどん増えるだろうと、旅行関係者やカンボジアの人たちが期待していたときでした。訪れた遺跡の中には、石像や建物に太い木の根がからまり、さらにはすっかり木々に飲み込まれたように見える建造物もたくさんありましたが、フランス人による修復・保存活動がさかんに行われていました。カンボジア・ブームが日本でもまさに始まろうというタイミングに思えたものでした。

 

 ところが、この旅行から帰ってわずか2週間後の1970年3月、カンボジアにクーデターが勃発し、それから23年間にも及ぶ内乱が続きました。

 

 アンコール遺跡も、私の泊まったあの瀟洒だったホテルも、戦乱の砲撃に、むざんな姿になっているという報道に接するたびに、お世話になったガイドさんとご家族の無事を遠い日本から祈るほかはありませんでした。

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ここが、かつて私の泊まった素晴らしいホテルがあったところです。

 

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 国民の敬愛するシアヌーク国王の復権がかない、カンボジアが平和な国家として再出発をしたのが1993年。いつかもう一度と思っていながら、それからさらに20年以上の歳月がたってしまいました。

 

 思い出のシェム・リアップは、空港も道路もすっかり立派になり、あの頃多かった三輪自転車「シクロ」に代わって、「トゥクトゥク」と呼ばれる4人乗りのバイクタクシーが疾走していました。なにより驚かされたのは、内外から来る旅行者であふれるばかりの観光地になっていたことでした。                                                

アンコール・ワットへ通じる堤道を、世界各国からの

観光客がひっきりなしに渡っていきます。

 

 

 46年前にご案内いただいたガイドさんが写っている写真が何枚かありましたので、今回持参いたしました。それをいろいろな人に見てもらったら、あるいは心当たりのある人がいるのではないかと、わずかな期待を抱いていたのですが、やはり短い滞在中に幸運を得ることはできませんでした。今回お世話になったガイドさんからは、知識人の多くが内乱中に粛清されたこと、たとえ生き延びたとしてもカンボジア人の平均寿命から言ってご存命の可能性は低いだろうということをお聞きしました。

 

 もしかしたらお亡くなりになったかもしれない方々へのたむけにと、市場で買い求めた花を携えて、王室別荘の向かいにある、土地の人たちの参詣が絶えることのないポムチュク・ポムチョン寺院と、ポル・ポト派に虐殺された人々を慰霊するトメイ寺院(通称:キリング・フィールド)に詣でてきました。

 

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ポムチュク・ポムチョン寺院の外観。中心街にあり、

人々に敬愛されているお寺です。

 

ポムチュク・ポムチョン寺院の内陣。

たくさんのハスの花が供えられていました。

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 カンボジア人の悲哀が感じられるトメイ寺院の内陣。

 境内には、虐殺された人々の無数の頭骸骨を納めた

 霊廟もあります。                                                

 カンボジアもベトナムも、一年のうちで最も暑さが厳しくなる4月中旬がお正月ですが、それとは別に中国暦の旧正月を2月に祝う習慣があります。

2016年の旧正月は2月8日が初日となりますが、その準備がもう始まっていたのでしょう、市場にはお正月飾りや仏壇に供える花や食べ物が並び、買い求める人々でにぎわう光景が見られました。

 

 カンボジアでは、アンケア・セル(angkea sel)と呼ばれる黄色い色をつけた灌木の枝や鉢植えが、ベトナムではモモとキンカンの枝と鉢植えが、旧正月に各家庭で飾る花として、市場などで大量に売られていました。

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市場の花屋さんには、お供え用の花飾りがたくさん売られていました。(カンボジア)

 

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市場で売られているアンケア・セルの枝。

旧正月の間に満開なるよう出荷されているそうです。(カンボジア)

アンケア・セル。日本では馴染みのない花木ですが、 こんな可愛い花を咲かせていました。(カンボジア)

 

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市場の神仏具店。旧正月の飾り物があふれるように

並べられていました。(ベトナム)

市場近くの雑貨店。

旧正月に飾る金ぴかの縁起物で光り輝いていました。(ベトナム)

 

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ベトナムの旧正月には、モモとキンカンが欠かせないもののようです。市場にはどちらもたくさん並んでいました。(ベトナム)

 

 カンボジアの国花は、外務省情報には「イネ」と「ロムドゥオル」(黄色みがかった白い花)と記載されていますが、カンボジア人のガイドさんによれば、一般の人が国の花と思っているのはやはりハスの花だそうです。日本でも、公的に決められた「国花」というものはなく、一般的にキクとサクラがそうだと思われているのと同じことでしょう。

 

 一方「国花はハス」と言い切ったのはベトナムのガイドさん。公的であろうとなかろうと、どちらの国でも国民に愛され親しまれている花がハスであることは間違いないところです。                                                     

 
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ハス池も随所に見られました。
これは私が今回泊まったメリディアン・アンコールの
ハス池のひとつ。

 

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アンコール・トムの石柱に見られる浮き彫りも、
46年前の拓本の図柄に似ていました。

 

 こちらはバンテアイ・スレイ遺跡に残るハス型の礎石

 カンボジアでは、多くのホテルやレストランが、水盤にハスの花を浮かべて、お客様を優雅にお迎えしていました。下の写真のように、ちょっと見たところでは布の造花のよう。でも触れてみると明らかに生花の手触りであり、よく見てみると生のハスの花のつぼみを花弁のように折りたたみ、開花したハスの形にしつらえたものと分かりました。

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お店により、折りたたみ方に違いがあり、微妙に形が異なっていました。

 

 ハスの花折りをどうやって作っているのか興味がわいてきました。自由時間を使って、ポムチュク・ポムチョン寺院を訪れた折に、寺院の裏手にずらりと並んでいた、お供え用の花々を売る店のひとつで、親切なおばさんに作り方を見せていただき、見よう見まねで作ってみました。

 

 日本のハスの季節には、花のクラスの皆さんにぜひこの技をご披露し、カンボジアンスタイルのおもてなしの心を伝えさせていただきたいと思っております。

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寺院の裏にはこんなにたくさんの店が並んでいました。

売り物の多くは、まだ固いつぼみのハスの花でした。

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