エパーン イギリス花器との出合い - フラワーコーディネーター森 由美子のホームページ

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エパーン イギリス花器との出合い

 

 右の写真のアレンジメントには、イギリスの銀製の花器、エパーンをを使用しました。

 

エパーンは、食卓の中央に置く銀、金、ガラスなどで出来ている飾り台のことで、果物、お菓子、花、キャンドルなどを入れるための、数本の枝状の容器を備えたものです。私は学生時代から「エパーン」という呼び方に慣れているのですが、「イパーン」と呼ぶ人もいます。

 

エパーン(epergne)という名前はフランス起源ですが、もともとはフランス・ブルボン王朝の宴席で、食卓を豪華に飾るためのセンターピースとして生まれたものです。それが18世紀後半に始まった産業革命によって、めきめきと国力をつけてきたイギリスに伝わり、さまざまな形状や材質のものに変化したと思われます。 

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 イギリスは、19世紀に、国力ますます充実してきて、世界中に植民地を擁し、各地から富とともに、エキゾチックな花や果物がもたらされました。貴族たちは、熱帯アジアから渡来する高価なランの花やパイナップルなどを食卓に飾り、自家の繁栄ぶりを競い合ったそうです。宴席では、少ない数量の花材でも華やかにアレンジできる花器としてエパーンが重宝され、独自の発展を遂げました。

 

 皆様もよくご存じのイギリス式のアフタヌーンティーでは、紅茶の他に、スコーン、サンドイッチ、ケーキなどを盛った皿が、2~3段重ねのティースタンドに載せられて出されます。このスタンドのこともエパーンと呼ばれています。

 

 本場ロンドンで優雅なアフタヌーンティーが楽しめるホテルのひとつがザ・サヴォイ。そこで使われているエパーンが右の写真のものです。

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   園芸科の学生時代のことですが、イギリス・スタイルの気品あふれる花の装飾法を教えていただいた岡見義男先生から、1冊のフランスの本をいただきました。右の写真がその本の表紙です。

 

 日本語にすると『花屋のアルバム』というタイトルになりますが、婚約、結婚、パーティー、葬儀など、様々な場面で使われる用具や花の装飾の仕方を、細かく描いたイラストが全207ページに満載されています。

 

 西暦1900年ちょうどにパリで発行されたものですから、収録されているのは100年以上も昔の花屋さんの仕事にまつわるイラストですが、ときおり眺めては楽しみつつ、アレンジメントのヒントもいただいています。

 

 では、この本のイラストをいくつかご紹介しましょう。

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 右は『1900年のパリの生花店』と題されたイラストで、当時のパリの町の花屋さんの店頭ディスプレーがどんな感じだったかが分かります。

 

 このイラストを見るたびに、<花の都>パリに行ってみたいと夢みていた若かりし頃を思い出します。ついに憧れのパリの花屋さんを見ることが出来たのは、後述の1971年、ロンドンからパリへ足を延ばしたときのことです。

 

 パリ中心部のヴァンドーム広場に近いホテルに投宿し、心せくまますぐ散策に出かけました。

 

 ホテルの真向かいにも瀟洒な花屋さんがありました。ウィンドウは、上から下まで美しい色合いの花々で飾られていて、イラストで見たような素晴らしさでした。あの感動はいまでも忘れられません。

 

 それからまた歳月が流れ、今では、あの頃のように素敵なアレンジメントが見られる花屋さんは、少なくともパリの中心街からは姿を消してしまいました。残念なことです。                                                          

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 右のイラストには、卓上にセットされた食器類と花の装飾が描かれています。中央部にある楕円形の島は、シュルトゥと呼ばれるセンターピースです。香辛料、果物、お菓子、花、キャンドルなどを見栄えよく載せるためのものですが、これがエパーンの原型だったそうです。

 

 このトレイ状の入れ物が、枝を伸ばしたり、何段かの層になったりして、いくつかの形状に分化していったのだと思われます。 

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 次のイラストに描かれたテーブルセッティングでは、中央部にいくつかの3段重ねのスタンドが置かれていますが、どこやらアフタヌーンティーのティースタンドに形状が似ています。

 

 複数の容器を枝状に伸ばす代わりに、縦に重ねたものですが、これもおそらくはエパーンと呼ばれていたのではないでしょうか?

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 フランスでは、19世紀後半、浮世絵をはじめとする日本美術への関心が高まり、「ジャポニスム(日本趣味)」がブームとなりました。その影響と思われますが、この本の中にも、花器や扇子や提灯など、日本のものらしい道具がいくつも描かれています。中でも、竹と花との組み合わせが興味をひきます。

 

 右はそのひとつですが、「数本の枝状の容器を備えたもの」という、エパーンの定義通りの花器を使っているアレンジメントです。私とエパーンとのそもそもの出合いといえば、この竹製エパーンとの遭遇だったのかもしれません。

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 日本には、愛知県の犬山市に、明治時代の建物や乗り物が集められて、明治時代が味わえる「明治村」があります。一方、アメリカ・ヴァージニア州には、イギリスの植民地時代を再現した「ウィリアムズバーグ」があります。昭和天皇も足をお運びになったところです。

 

 ウィリアムズバーグの歴史地区は、東京ドーム100個分という広大な野外博物館です。修復または復元された17~18世紀の建物や、店や職人の工房が立ち並び、住人(スタッフ)たちは当時の服装で、当時の手仕事をしながら、当時の言葉づかいで、にこやかに迎えてくれます。

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 私はこの歴史地区が好きで、いままで3度行っていますが、最初はアメリカを代表するフラワーアーチストのビル・ヒクソン先生に連れて行っていただきました。1968年に先生と一緒にアメリカ10州でデモンストレーションをしたときのことです。その折に、歴史地区のお店で初めて本物のイギリス製のエパーンと出合い、買い求めました。これが私のエパーン・コレクションの第1号です。

 

 その後、1971年にイギリスに行った折には、当時はまだ参加資格が厳しかった競売会社のサザビーズで、知人の身内で資格を持った人にお願いして、20数点の花器や雑貨を入札していただき、年代もののエパーンを1つ手に入れることができました。

 

 花器には目がない私ですので、その後も東京・代官山でイギリス骨董を扱っていた知人を介して、いくつかのエパーンを入手しました。以下に、いま手元にあるエパーンから、いくつかご紹介させていただきます。冒頭のアレンジメントは、一番目のエパーンを使ったものです。

 

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       ティースタンドの最上部に花挿しを備えた形状のエパーンです。